HOME > 皮膚トラブルが改善する機序 > 医師向け教科書【理論編】

医師向け教科書【理論編】

1.肌の変化

1)健康な素肌

角質層の表面は皮脂膜に覆われていて、肌にうるおいを与える役割を担っています。
皮脂膜は洗顔をするたびに流れ落ちます。そのため洗顔後は肌が乾く感じがしますが、1時間もすると新しい皮脂膜がつくられ、肌がしっとりします。健康な素肌には自ら再生する力があります。
肌には約1兆個もの皮膚常在菌がすみつき、皮膚とともに肌の健康を守っています。
常在菌は、汗、皮脂を食料とし脂肪酸やグリセリンを生成します。これらを食料とする常在菌も存在し精妙なバランスを保っています。

2)4週間後の肌の変化

非接触生活習慣を取り入れ、一次刺激性物質との接触が避けられれば、皮膚疾患が慢性化していた期間を問わず、翌日から肌が変化します。1ヶ月続けても何も変化が見られない、むしろ悪化しているように見えるという場合は、見落としている接触物の存在の可能性があります。

【肌トラブル別改善にかかる時間】

○ニキビ

程度によって健康な状態に戻るまでの期間には個人差がありますが、一次刺激性物質との接触を避けることで翌日から新しいものはできなくなります。
顔全体に赤みがある方でも、接触がなくなれば1週間程度で赤みが減ってきていることに気づくでしょう。
何ヶ月も赤みが続き、茶色にくすんで炎症性の色素沈着を起こしている場合は、赤みと色素沈着が取れるまでに3ヶ月ほどを要します。皮膚生理に年齢は関係ありませんから思春期のニキビにも、大人のニキビにも、同じことが言えます。

○毛穴の開き

毛穴は、さまざまな肌トラブルの中で最も早く変化が現れます。
接触がなければ翌日に毛穴は閉じます。

○カサつき・湿疹

ちょっとしたカサつきであれば、一次刺激性物質との接触を避けることによって翌朝には改善します。強い接触をしたあとは肌がガサガサとした感触になりかゆみを伴うこともありますが、接触がなくなれば翌日から肌に変化が現れ、2~3日で改善します。

○かゆみ・湿疹

一次刺激性物質との接触がなければ、すぐに治まります。
夜かゆみがあって眠れなかった方が、洗濯洗剤を切り替えて洗い直したらその日の夜からぐっすり眠れるようになった事例もあります。

○赤み・くすみ

肌の赤み・炎症は起こりやすいもの。シャンプーを使って髪を洗ったりクリーニングに出した
衣類に触れたりするだけで肌の紅斑値(赤み※)が上昇してしまいます。
しかし下がるのも早く、接触がなければ1週間程度で元に戻ります。
見た目にもすぐに変化が現れますから、鏡を見れば、赤みが治まっていることに気づきます。
ただ、長期間にわたって赤み・炎症が続いていた場合は、メラニン値(色素沈着、くすみ※)も高い数値になっています。
赤みが減った後、なんとなくくすみが残っているように感じることがありますが、メラニン値(※)が
下がるまでは1ヶ月程度かかります。
そのため、赤みが減ってから肌に透明感が出るまでは1ヶ月が目安になります。
炎症性の色素沈着が起きている場合も、今までの事例では3ヶ月で改善しています。

(※)紅斑値、メラニン値の詳細については「皮脂、水分量、紅斑値、メラニン値、弾力値」を参照

○シミ

シミは、非接触生活を続けたうえでASVCを使って長期的に取り組む必要があります。
実践者の事例を見ていると、1ヶ月の実践でも本人は気づかないうちにシミや肝斑が薄くなっていることもあります。シミをファンデーションで隠している方は多いのですが、どのようなものであってもつければ肌に負担がかかります。

2.肌の測定と数値の解説

(1)紅斑値:赤み、炎症

短期的な影響を判別する値です。
肌の赤み。肌の内部に炎症があると上昇します。
(→グラフの緑の線。数値が下がると良い)

(2)メラニン値:くすみ、色素沈着

長期的な影響を判別する値です。肌のもともとの色調を決めるもの。
色素沈着があったり、体調が悪かったりすると上がる傾向があります。
(→グラフの黄色の線。数値が下がると透明化が現れる)

(3)弾力値:

肌のハリ。弾力値の目標は目の下50、額60、頬70です。
(→グラフの赤色の線。数値が上がると良い)

※紅斑値、メラニン値には目標数値はありませんが300を超えると高い数値となります。
※グラフ下部の数字は測定回数を表しています。

(4)皮脂/水分量

一般の化粧品店などでは皮脂、水分量は重要視されますが非接触生活習慣において、この数値は特に重視すべきものではありません。当たり前ですが汗など皮膚表面に水分があると、水分量は皮膚の状態にかかわらず上昇します。

SKInfo Plusを使い測定したデータ

3.皮膚生理の基礎知識

1)皮脂膜と皮膚常在菌の役割

○皮脂膜

皮膚は、胃や腸と同じ、身体の臓器の一部です。身体の一番外側で、体内を外部の環境から守る働きをしています。
いわば、人間の生命維持の最前線なのです。皮膚はいくつもの薄い層で構成されています。それらの層の一番外側にあるのが「皮脂膜」。汗と皮脂から作られる天然の保護膜です。皮脂膜は、皮膚を外界の刺激から守りながら、その表面を滑らかで潤いあるものにしています。

つまり皮脂膜は、体内を守る皮膚を、さらに守っている膜なのです。皮脂膜が守ってくれているからこそ、皮膚は健康な状態を保つことができ、「体内を守る」という本来の役割を果たすことができるのです。

皮膚の健康と美しさは表裏一体。皮膚の美しさについても、皮膚の健康と同じことが言えます。皮脂膜が肌を守ってくれているからこそ、肌は美しい状態を保つことができるのです。

○皮膚常在菌

私たちの肌には、約1兆個もの皮膚常在菌がすみつき、皮脂膜とともに、肌の健康を守っています。
常在菌は、汗、皮脂を食料とし、脂肪酸やグリセリンを排泄します。排泄された脂肪酸やグリセリンを食料とする常在菌も存在し、精妙なバランスで共存しています。
常在菌のバランスが乱れると、通常は皮膚の上では増殖しない菌が増殖しやすくなったり排泄された脂肪酸により「脂漏性皮膚炎」になったりすることもあります。

2)皮脂膜と皮膚常在菌のバランスを崩す要因

洗顔をすると、皮脂膜は洗い流されます。でも、その後何もつけずにいれば、皮脂が自然に分泌され、ひと晩のうちに再生されるのです。

ところが、皮脂が再生される前に化粧水やクリーム類をつけてしまうと、皮膚は皮脂膜を作ることができなくなってしまいます。結果、肌本来の能力を低下させてしまうことになるのです。

化粧水や乳液をつけることは、肌にもともと備わっている防御能力を、自ら台無しにしてしまっているようなものです。洗顔後になにもつけずにいるなんて、年齢によっては無理なのでは?という声もありますが、皮膚生理のメカニズムに、年齢は関係ありません。

むしろ、皮膚の衰えを感じてしまった方にこそ試して欲しいと考えています。肌が本来持っている機能を低下させると、皮膚の老化を早めてしまいます。

カサつきを感じるときは、皮脂膜を作る能力が落ちてしまっている時です。そんな時は、特に乾燥が気になる部分にだけ少量のワセリンをつけて、人工の皮脂膜を形成します。しばらくすれば、肌は皮脂膜を作る能力を取り戻します。

また、肌に何かを塗っていても、それだけで常在菌のバランスが崩れます。
とりわけ防腐剤や界面活性剤は常在菌のバランスに悪影響を及ぼします。皮膚常在菌は防腐剤などを含む基礎化粧品類を使い続けていると、バランスが乱れ、皮膚に悪影響を与える菌が増殖しやすくなります。

3)肌の敏感さ

肌の敏感さは個人差の大きいものです。

化粧品やシャンプー・リンス、柔軟剤・抗菌剤には「一次刺激性物質」が使われています。
「一次刺激性」とは接触したら誰にでも刺激が起こることを言います。
「アレルギー性」とはアレルギーのある特定の人にしか起こらないことです。

「一次刺激性物質」とは、炎症の起因物質でありタンパク質変性物質のことで、生きている細胞が接触したら誰にでも変性、炎症が起こります。

シャンプー・リンスを普通にしたり、毎日メイクをしたり、特に気にせず柔軟剤を使ったり、同じことをしていても肌がきれいな人がいます。

肌の敏感さは生まれつきのもの。その個人差も大きく、全く刺激を感じにくい肌もあれば、化粧品や日用品で肌トラブルを起こす敏感な肌もあります。

4.化粧品の基礎知識

化粧品の成分

肌の一番の役割は体内を守ることです。
身体の一番外側で、紫外線や細菌・ウイルス、化学物質などの侵入を防ぎ外的刺激から体内を守っています。つまり、肌は体内に何も入り込ませない機能を持っているといえます。そのため、化粧品であっても泥水同様に、肌にしみこませたくないのです。

○薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)との関係

薬機法(昭和35年8月10日 法律第百四十五号)に規定する、化粧品の定義は次のとおりです。

化粧品(薬機法第2条第3項)

この法律で「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化 し、魅力を増し、
容貌ぼうを変え 、又は 皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、

身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが
目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。
ただし、これらの使用目的のほかに、第1項第2号又は第3号に
規定する用途に使用されることも併せて目的とされている物及び医薬部外品を除く。

化粧品は効能・効果を表現できず、求められているのは安全性です。
化粧品が浸透して何らかの効果を発揮するのであれば、生化学的に細胞に影響を与えているということ=薬理作用があるということになります。従って副作用の疑いが発生していることになります。

行政の立場から化粧品は皮膚に浸透してはいけないものとされています。
なお、薬事法では、PRに「浸透」という表現を使う場合は「角質層まで」と但し書きをすることを義務づけています。

従って化粧品は肌内部には浸透せず、角質層までです。ただし、医薬部外品は肌内部にしみ込むものもあり、効能を表記することができます。故に、美白の効果効能は医薬部外品となります。

5.日用品の基礎知識

1)洗濯洗剤の種類と影響

洗濯洗剤が肌荒れの原因になることは、一般的にはあまり知られていません。
洗濯洗剤は、界面活性剤そのものです。肌に塗るものではありませんが、洗濯後の衣服に界面活性剤などの成分が残留していると、接触性皮膚炎の原因となります。

◆洗濯洗剤の種類

粉末
粉末タイプの洗剤、水温が低いと溶け残りがあり、布地に微粉末が残留してしまいます。残留した微粉末は肌に刺激となりますので使わないようにしましょう。
固形
固形タイプの洗剤も粉末タイプ同様に水温が低いと溶け残りがあり、布地に残留してしまいます。残留したものは肌に刺激となりますので使わないようにしましょう。
液体
液体タイプの洗剤。柔軟剤や抗菌剤等の成分が配合されていると布地に成分が残留します。

◆洗濯洗剤に含まれる成分と肌への影響

洗濯洗剤には、様々な成分が含まれています。衣類の汚れを落とすための成分が肌へ悪影響を及ぼすこともあります。

柔軟剤
柔軟剤は、界面活性剤の皮膜で繊維をコーティングします。
それにより布地のすべりを良くし、風合いを保ち手触りを柔らかくしています。
柔軟仕上げ剤の主成分は、陽イオン(カチオン)界面活性剤です。すすぎをしても布地の表面を成分が覆っています。柔軟剤は一次刺激性物質です。肌の弱い人は、使わないようにしましょう。
抗菌剤
抗菌剤は一次刺激性物質なので肌の弱い人は使わないようにしましょう。
蛍光増白剤
蛍光増白剤は布地をコーティングする染料の一種です。
一次刺激性物質なので肌の弱い人は使わないようにしましょう。
界面活性剤
洗剤の主成分です。衣類や寝具の線維には、皮脂や剥離した角質片が「汚れ」として付着します。洗濯洗剤には、皮脂の脂分を落とすために強めの界面活性剤が含まれています。
詳細は次項目「界面活性剤の種類」参照。
アルカリ剤
粉末タイプの重曹などのアルカリ剤は水に溶けにくく、布地に微粉末が残留してしまいます。アルカリ剤が残留した衣類や寝具に肌が触れると、肌に刺激となります。

◆界面活性剤の種類

界面活性剤にもいくつか種類があります。肌への刺激が少ないのは「AE系」のものです。

石けん
石けん由来の界面活性剤を使用したものは、洗濯後の布地に脂肪酸が残留します。脂肪酸は、一次刺激性物質です。
油脂由来の界面活性剤
ヤシ油など油脂由来の合成界面活性剤を使用したものは、洗濯後の布地に遊離脂肪酸が残留します。脂肪酸は、一次刺激性物質です。
AE(Alkyl Ether)系界面活性剤
比較的新しいタイプの界面活性剤で、使用後は自然界で分解されやすい。少量で汚れをしっかり落とせて、水によるすすぎによって布地への残留も少ないと考えられています。
指定洗剤はAE系界面活性剤が使われています。
LAS(Linear Alkylbenzene Sulfonate)系界面活性剤
50年以上も前から洗濯洗剤につかわれている成分です。汚れを落とす効果が高いが、自然界にて分解されにくく、環境によくないことが指摘されています。粉洗剤によく使用されています。

◆洗剤選びで大切なこと

付着している柔軟剤(陽イオン界面活性剤)などの落ちにくい一次刺激性物質を落とす充分な洗浄力があること
・AE系/LAS系の界面活性剤
布地に洗浄成分が残留しないこと
・固形せっけん、粉末洗剤、粉末せっけんは溶け残り、布地に成分が残留します
抗菌剤、蛍光増白剤、柔軟剤、シリコーンを含まないこと
・成分は水ですすいだあとでも布地に成分が残ります

◆洗剤を使用しない洗濯用品について

①洗濯ボール/洗濯リング

洗濯洗剤を使わない洗濯用品などもあります。しかしながらこれらは柔軟剤、蛍光増白剤、抗菌剤などの一次刺激物質を落とすことができません。

②微生物洗剤

自然由来のものには肌にやさしいイメージがあり何となく良さそうな感じがするかもしれませんが、これらにも一次刺激性物質に対する洗浄力は不確かです。
以下は使わないようにしましょう。

  • ○竹炭
  • ○米ぬか
  • ○貝
③アルカリ剤

以下の成分を含む物は使用しないようにしましょう。
粉末が布地に残留し肌の弱い人へは刺激になります。

  • ○重曹
  • ○炭酸ナトリウム
  • ○セスキ炭酸ナトリウム
  • ○ケイ酸ナトリウム

2)落ちにくい加工をされた衣類、日用品

抗菌作用のあるもの、ティッシュやマスクなどの日用品にも刺激物質が含まれていて肌荒れの原因となります。
以下はかぶれた報告のあるもの一覧となります。

○抗菌・柔軟・UV加工されたグッズ

  • 寝具(枕カバー、シーツなど)
  • 家具(電話、ボールペン、パソコン、マウス、マウスパッドなど)
  • 衣類など身につけるもの(帽子、ヘアゴム、コンタクトレンズ、タイツ、ハンカチ、機能性新素材など)
  • 文房具
  • メイクブラシ、メイク用スポンジ
  • ヘアブラシ
  • マット
  • スリッパ
  • 調理器具
  • マスク
  • オーガニックコットンの衣類
  • ティッシュ
  • クリーニングに出した衣類

○抗菌剤

  • お風呂用洗剤
  • トイレ用洗剤
  • 殺菌系石けん&アルコール
  • 消毒薬
  • 消臭スプレー
  • 制汗スプレー、制汗シート